Vol. XII, No. 95 平成十八年十月九日

首相に就任した安倍が直面したのは、去年8月に小泉が直面したと全く同じ政局だった。当時は岡田克也が靖国参拝に反対し、水面下で中国政府と共闘していた。安倍が参拝すれば中国が反日デモを仕掛け、07年参院選で小沢の勝利を助ける、というシナリオだ。しかし靖国で「ベタ降り」して、右派が離間するのも怖い。[1] 絶体絶命の安倍を救ったのが北朝鮮の核実験宣言だ。村山宣言を受諾しようが、しまいが、安倍は安倍だ。北朝鮮の挑発に応えて核武装に踏み込むかもしれない、と北京は読んだのだ。

その良し悪しはともかくとして、現状のままで靖国参拝をつづけるのは政治的に無理だ、と私は一年ちかく発信してきた。だが雑誌編集は売文稼業だから、売れるものなら何でもいい。靖国特攻隊を雇った。しかし結局のところ、正しかったのは私だった。

靖国問題というのは、日米問題であり、それを中国が上手に利用している。そして総理就任と同時に、タイムズとポストの論説が、友好的な警告を出した。それを報じることで、アメ通は「ベタ降り」か敗北かの二者択一を暗示していた。

実は安倍氏は、小泉の官房長官になってから極度に慎重になっていた。環境が余りに変わったのだ。長州藩の素封家エリートのボンボンであるのと、総理大臣であるのとでは環境が違う。

政治の判断には年季が要る、とアリストテレスは言う。十代の少年で数学の天才になることは充分あり得る。しかし数学の天才だからといって、首相の仕事を任せることができるだろうか。政治とは正しいよりは勝つことなのだ。

私は安倍の変心にゴーリスト的な決断力を見る。日本人に特有な馬鹿臭いコダワリがない。ドゴール将軍は、アルジェリアの「独立戦争」にフランスが勝てないと知るや、右翼の落下傘部隊将校を切り捨てた。勝てないものは駄目なのだ。

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政治とは正しいよりは勝つこと
北朝鮮の核実験の影響は?
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