靖国神社と皇室典範をイデオロギーに捉われずに考えています。
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片岡鉄哉 略歴 1933年、栃木県に生まれ。元スタンフォード大学フーバー研究所研究員。早稲田大学政経学部卒業。シカゴ大学大学院政治学部博士課程修了。 1969年ニューヨーク州立大学政治学部助教授、1982年筑波大学歴史・人類学系教授に就任。1984年スミソニアン・インステテューション Woodrow Wilson Center fellow
核武装を堂々と提案する国会議員は西村真吾ひとりだった。そして彼は追放された。しかし、こと靖国、歴史に関しては、船頭多くして船山に登るの感がする。なぜ靖国特攻隊は大衆に受けることしか語らないのか。やはり売文なのか。小泉総理が靖国問題で敗北した過程を分析すると、判然とすることがある。彼が靖国で負けたのは、日本が核のタブーに縛られているからなのだ。核のタブーと靖国敗北。この当然すぎる因果関係を無視して、靖国、靖国と騒いでも無益なのである。
日本人は核兵器を嫌うように教育されてきた。毎年8月6日、国をあげておさらい(御唆)をしている。しかしナショナリストの論客はこのタブーに挑戦しない。それどころかタブーに従順である。ミーチャンハーチャンに迎合しているのだ。
核兵器には二つの効能がある。第一に、核兵器は国家の安全を保障する。敵が日本を攻撃したら、必ず核で報復すると宣言することで、敵の先制攻撃を抑止する。だが、これは最小限の安全保障を意味する。
そもそも日本本土が他国から直接攻撃されるというシナリオはかなり極端なものだ。第二次大戦で一度だけ起きたに過ぎない。日本以外で核攻撃を受けて国もない。日本人は、最小限の安全保障で満足するというのだ。しかし核兵器には第二の効能がある。
核兵器で最小限の安全が保障されると、外の世界で活発な外交ができるのだ。国の威信(prestige)が高まるのだ。中国や北朝鮮は核兵器を一度も使ったことがない。イスラエルも同様だ。では、なぜ彼らは核を保有するのか。ここに核兵器の第二の効能がある。日本の例が「反面教師」である。日本は、第一の効能をアメリカの核の傘に頼っている。これで最低限の安全は保障される。しかし積極的な外交はできない。小泉総理が靖国で中国と紛争を起こすと、宗主国アメリカの都合で、「靖国から手を退け」と命令されている。
アメリカはイラクの泥沼にはまり込んで、台湾、朝鮮半島、東シナ海などで二正面作戦ができない。日本を核攻撃からは守るが、日本の外交は支持できない。だからブッシュは小泉総理を突き放したのである。
読者に、この重要なポイントが理解してもらえるだろうか。核兵器が実戦で使用されたのは、ヒロシマ・長崎の二度だけだ。それ以外の場合は、恫喝の道具として使われる。或いは外交の道具として使われる。北朝鮮とイスラエルが好例だ。
先日、私は岡崎久彦が2月の講演で核武装の潮時が到来したと発言したことを報じておいた。実は、岡崎氏は靖国問題について、小泉総理の陰のアドヴァイザーであった。小泉が、ブッシュの手で引導を渡されたのを知った岡崎は、ようやく腰をあげたのだ。
核兵器は第一に安全保障の道具であり、第二に、外交の道具なのだ。持っていないと子ども扱いされるのだ。米・中が、北朝鮮の核抜きと日本の核抜きを交換することで取り引きをする理由はここにある。日本は馬鹿にされているのだ。
しかしこの点は靖国特攻隊には理解できない。彼らは目隠しされた馬車馬のように、靖国しか見えない。核のタブー → 靖国の敗北という因果関係が見えないのだ。
ウオールストリートジャーナルが、社説で抱腹絶倒の風刺をやった。これを理解するには「トロイの馬」の逸話を知る必要がある。
紀元前1200年ごろの話。ギリシャ軍は,トロイの城を攻めるのをいったん諦めると見せ,巨大な木馬を置き去りにしたまま引き上げた。戦いに勝ったと思い,油断したトロイ人は,戦勝の印にとこの木馬を城内に引き入れた。
お祝いの宴が開かれ,人々は酔いつぶれた。そして真夜中,木馬は開き,中に隠れていたギリシャ兵が閉ざされた城門を開け,外に待機していたギリシャ軍が城になだれ込んだ。そして,トロイの城は滅ぼされた。次にジャーナルの社説。
「この世で我々が学ぶべきものがあるとすれば、それはただの物はないということだ。次ぎの話の発端は、台湾野党の指導者・連戦による北京訪問である。連戦氏の大陸に対する恋慕の情の深さに興奮した中国政府は、台湾にパンダを二匹贈呈することにした。
「この提案の裏には何かあると疑って然るべきであろう。そもそも中国は、ワシントンDCとアトランタ市の動物園に賃貸しているパンダについて、余りに高利を貪るので、パンダ返還の提案があるほどだ。
「ともかく中国では台湾に贈呈するパンダの名前を人民投票で決定することに決めた。国家主席や首相を選ぶことは許されない中国で、パンダの名前が人民投票に託されたのだ。
「その結果、『統統(とぅぁんとぅぁん)』と『元元(ゆぁんゆぁん)』と言う名前が選ばれた。この投票に不正があったと疑う理由は、この二つの名前を繋ぐと『統元』、つまり中国・台湾の『再統一』という意味になることだ」。
これ即ち「トロイのパンダ」也。
解説
上記の記事を読んで判ることは、ブッシュが台湾と小泉を中国に売りに出したことで、臍を噛んでいることだ。[2] 彼は、日本と台湾を中国から守りたいのだ。しかしイラクの泥沼にはまって弱体化した今、何もできない。二正面作戦は無理だ。
ところが日本のナンバー・ワンは「剣士」として知られる。かっとなると何をやるかわからない。そこでブッシュはわざわざ京都まで飛来して、日米が直面する危機に関して、こんこんと説いて諭したのだ。更に、日本核武装を勧めたはずである。
同様に、ブッシュはジャーナルを使って、「統元」は「トロイのパンダ」だと警鐘を鳴らしているのだ。これ以外にブッシュに出来ることは今の時点でないのだ。
[1] “Trojan Pandas,” the Wall Street Journal (editorial), April 3, 2006.
[2] 臍を咬む。ほぞをかむ。後悔するという意味。